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今さら聞けない「キャリア自律」取り組むメリットは?何をどう進める?

58 分前
読了時間: 12分

2年ごとに行われる「グッドキャリア企業アワード」の2026年の受賞企業が10月に発表されました。これは、厚生労働省が、従業員の自律的なキャリア形成を支援する企業の模範的な取り組みを表彰するもので、イノベーション賞では、生産性の向上や業績拡大といった経営上の具体的な成果に結びつけた取り組みも評価されます。


残念ながら、いまだに「社員のキャリア自律に手を貸したら、みんな辞めちゃうんじゃないか?」と誤解が解けない組織や人があるのも事実。これを放置すれば、取り組む企業との差が広がるかもしれません。そこで、誰にでもわかるように、できるだけやさしくカンタンに「キャリア自律」について解説しました。

今さら聞けない「キャリア自律」取り組むメリットは?何をどう進める?|一般社団法人リアルトレジャー

「キャリア自律」 ということば


「キャリア自律」は大規模な人員削減が相次いだ1990年代のアメリカで提唱され始めた概念です。発表の時期、発表した研究者や組織により表現は少々異なりますが、共通項をまとめると


自分の価値観・能力・適性を理解し(自己理解)、

人生設計を視野に入れた キャリアプランと能力開発を考えて試し(目標設定・試行)、

仕事や環境の変化に適応しながら実行する(仕事理解と環境適応)、

主体的かつ継続的な取り組み(マインド)です。


ということです。肝は「主体的かつ継続的」です。主体は社員で、会社はこの取り組みを支援するという形で、双方がともに社員のキャリア形成に取り組むこと。そして、1回きりでなく、定期的に続けていくことが大切です。詳しくはあとで解説します。 その前に、混同されがちなことばを整理しておきます。


自立と 自律

どちらも「他人や組織に依存せず、自分で考えて行動できる状態」を意味します。その違いをざっくり言えば、自立は外的要素、自律は内的要素を表します。

自立(外的要素):経済性・身体性・生活能力など物理的なひとり立ち

自律(内的要素):自分の価値観や理性に則って最善の選択・意思決定


「自立した社員」は、自分の意見を持ち、自分の力で行動できるという能力や自己裁量度の状態などを表しています。一方、「自律した社員」は、自ら課題を見つけ、自分の役割や周囲の期待も踏まえて主体的に考え、行動するセルフマネジメントができる人材を指します。上司から指示されなくても自ら課題を見つけ、周囲と調整を図りながら、スケジュールやモチベーションを自己管理し、目標達成に向けて自ら取り組んでいく——最近、よく取り上げられる自律型人材がこのタイプ。自律的な行動は、実務能力や知識、スキルだけでなく、心理的な土台の上に成り立っています。つまり、社員のキャリア自律を支援することは、自律型人材を育てることにも通じるのです。


キャリアプランと キャリアパス


この2つもよく混同されています。その違いは、主体は誰かということです。


キャリアプラン:主体は社員

社員が中長期の目標設定において用いる長期的なキャリア構想。職業のみならず、ライフプランやライフイベント、ライフスタイルを踏まえた包括的なもの。


キャリアパス:主体は会社

会社が等級制度・人事制度の説明で用いる、会社が用意した社内での昇進・異動などの道筋。


たとえば、重役が営業成績が優秀な若い社員に「幹部候補生としての君の将来を考えて、●●支店で支店長を経験することを考えてみないか?」と持ち掛けた、これがキャリアパスです。ただ、この社員は近く結婚を控えており「新居も決まったこの街から離れたくない、断ったら昇進はなくなるかもしれない、ならば~」と個人が頭をひねるのがキャリアプランです。

キャリア自律の主体は社員で、重視されるのは「キャリアプラン」です。


     キャリア自律した     社員のメリット


キャリア自律を進めたとき、社員が得られるいちばんのメリットは人生の満足度が上がるということです。

主体的かつ継続的な能力開発によって、強みを磨くことで、会社や雇用形態が変わっても、自分でキャリア形成していける自信がつき、時代の変化や人生の転機に適応でき、ピンチや逆境でも強いレジリエンスを発揮できます。キャリア設計やマネープランへの不安が解消され、自分らしい生き方・働き方を取り入れた中長期的なライフプランを描くことができます。こうして自分らしさを活かしながら会社や社会に貢献し、人から喜ばれる貢献領域を見つけることができます。そのため、やりがいや仕事へのエンゲージメントが高まり、自然と人生の充実感・幸福度も向上するのです。

変化に強くなる 適応力 柔軟性

プロティアン・キャリア|一般社団法人リアルトレジャー

自分の価値観や判断基準、興味・関心の自覚、そして過去から現在、未来に至る自己統一性が備わることで、自分軸がしっかりします。環境や時代の変化に迷わず、変幻自在に自分を変え、好奇心をもって新しい環境に適応していけます。

モチベーション

やりがい 好奇心

モチベーション維持|一般社団法人リアルトレジャー

他人に言われてすることでなく、自分で見つけた課題をクリアして、目標達成をめざします。スケジュールやモチベーションを管理するのも自分です。そのため「やらされ感」がありません。納得感・満足度が高く、やりがいが得られます。

市場価値の上昇 高い専門性 ポータブルスキル

主体的な意思決定のプロセスをくり返し、能力開発を続けていきます。限定的な職場でしか使えないスキルではなく、どこでも通用する能力・知識・スキルの蓄積によって、労働市場からも、時代にも求められる人材になります。


     キャリア自律を支援する      企業のメリット



     自律型人材へ      育っていく


社員が自らの能力開発を行うことでスキル・能力の向上や効率化が図れます。上司がいちいち進捗管理する必要がない自律型人材が増えれば、マネジメント業務は格段に軽減されます。自らの成長を後押ししてくれる理解がある職場へのエンゲージメントは自然に高まるため、おのずと社員の定着率が安定し、労働市場での強みとなります。このような積み重ねによって、生産性や業績に結びつきます。

社員のパフォーマンスの向上

エンゲージメントの向上

優秀な人材の確保・離職率の低下

生産性の向上・業績拡大


     VUCAの時代を      生き抜く


社会変容のスピードは年々早まっています。たとえば、生成AIから、自律的に動くAIエージェントへ機能が拡大。加えて、人や社会における価値観・ニーズ・評価もめまぐるしく変化しているなか、将来の予測となるとさらに困難になっています。

「VUCAの時代」と呼ばれるようになって久しい昨今、企業には収益性とともに社会課題解決や社会的価値の創造といった企業の存在意義(パーパス)、ダイバーシティ(多様性)の尊重、持続可能性などが求められています。

Volatility (変動)
 新技術・トレンドによる業界や労働市場の激しい変化
Uncertainty (不確実)
 国際情勢・社会問題・災害などによる先行き不透明な状況
Complexity (複雑)
 技術の進歩・ニーズの多様化による業務・事業の高度化・複雑化
Ambiguity (曖昧性)
 複数の解釈や意味が存在し、正解がはっきりしない状態

キャリア自律支援がVUCAの時代の企業の問題を解決し、経営を支えることは、グッドキャリア企業アワードで紹介されている受賞企業の取り組みの事例からもうかがえます。


  • 困難な経営状態のなかで就労意欲が失われやすく、士気の低下、離職率の上昇、業績悪化のスパイラルに陥る

    →対話の促進、企業理念・パーパスと社員のキャリアを結びつける共創の土壌づくり

  • DXなど技術革新や価値観や認識の変化によって、これまでの慣習や企業の過去の成功体験による指導では社員の能力開発が困難

    →学びや挑戦の場の提供、リカレント・リスキリング

  • 個人の価値観の多様化。家族との時間、余暇を楽しむ、ボランティアで社会に貢献するなど、さまざまな形での自己実現

    →対話による価値観やキャリアプランの相互理解、制度・機会の整備



    キャリア自律のサイクル

    自分で回し続ける

さて、それでは実践編です。 キャリア自律の土台になる「主体的・継続的に取り組んでいく」というマインドを原動力にして、「自己理解 → 目標設定・試行 → 仕事理解と環境適応 → 振り返り」のサイクルを回してみましょう。螺旋階段を上がっていくように、サイクルを回すことで自分がアップデートされていくのを実感できます。


キャリア自律のサイクル|一般社団法人リアルトレジャー

それぞれのステージには課題があり、その課題をクリアして次のステージへ進みます。ステージごとの取り組みを見てみましょう。



キャリア自律|主体的・継続的取り組み(マインド)|一般社団法人リアルトレジャー

主体的・継続的な取り組み(マインド)


旅に出ると決め、自分が運転席に座る意志です。「会社が研修を用意してくれないから学ばない」という受け身の姿勢では、サイクルは動きません。「自分の人生の主導権は自分が握る」という当事者意識と、生涯にわたって学び挑戦し続ける継続性が、全体を支えます。ただし、個人の主体性と企業の支援は両輪です。


企業側 支援する上司が自らお手本となる必要があります。      もう十分学んだ? いえいえ、キャリア自律に終わりはありません。 →部下のキャリア自律支援を行う管理職向け研修・ロールプレイ

 


キャリア自律|自己理解(出発点)|一般社団法人リアルトレジャー

自己理解(出発点)

出発前に、現在地と持ち物を確認する作業です。「何を大切にしたいのか(価値観)」「何が得意なのか(強み・能力)」「どんな環境が向いているのか(適性)」「これまでの経歴・業務内容」を整理します。ここが曖昧だと、他人の意見や流行に流されるようになります。今はわからなくてもいいです。その場合「わからない」と気づいて、探索していきましょう。


 企業側     まず、キャリアの方向性をアウトプットする機会づくりから。

     若年層にはキャリア・アンカー(価値観・意欲・役割)や職業志向性などの探索、中堅以上には併せてスキル・業務の棚卸しを行い、働き方を含めた自己理解を深めます。 →キャリア面談・キャリアコンサルティング(ジョブ・カード、キャリアプランシート)



キャリア自律|目的設定・試行|一般社団法人リアルトレジャー

目標設定・試行

目的地とルートを決め、まず近場を試走します。自己理解をもとに、仕事だけでなく家庭・地域・学びも含むライフキャリアを視野に入れ、キャリアプランと能力開発の計画を立てます。この段階の目標は「仮のもの」です。新しいプロジェクトに手を挙げる、社内公募に応募する、社外で学ぶ、先輩に話を聞くなど、小さく試して手応えを得ます(啓発的経験)。


 企業側     具体的な行動目標へ落とし込みと意思決定を支援する段階です。      キャリアプランに必要な会社が提供できる制度を提案、整備していきます。試して学ぶ(啓発的経験)機会、挑戦が評価されるしくみ・制度など。 →1on1面談・キャリア面談、研修・リスキリング制度、社内公募・ジョブローテーション



キャリア自律|仕事理解と環境適応|一般社団法人リアルトレジャー

仕事理解と環境適応

天候や道路状況を確認し、進むルートを選び、状況に応じて走り、目標をめざします。試走で得た手応えから、仕事や環境の現実への理解を深めます。「思ったより面白い」「求められる水準が高い」といった実感です。そのうえで、続ける・修正する・方向を変えると意思決定し、環境の変化に合わせて調整しながら実行します。会社や上司の意向を理解することは大切ですが、選択・調整するのはあなた自身です。

 企業側     学習や挑戦を後押し。定期的なレビュー、行動計画への反映。      キャリア自律支援の効果の数値化などを準備しておきます。 →1on1面談・行動計画の内容・進捗度・面談満足度・エンゲージメントスコア



キャリア自律|振り返り|一般社団法人リアルトレジャー

振り返り

旅の記録をつけ、地図を更新します。何が得られ、何が変わったかを確かめ、新しい現在地(自己理解)から次のサイクルを回し始めます。

振り返りは失敗や問題点だけではなく、うまくできた点、高評価を得た点、チャレンジした点なども漏れなく挙げておきます。それが、今後の強みや可能性になります。振り返りを自分へのダメ出し(自己否定)だけに使ってはいけません。

 企業側     行動計画が目標に到達した時点でともに振り返り、

     フィードバックを行います。次のステージへの課題を検討し、現時点での成長実感や実務面の変化を測定・記録します。

→フィードバック面談・行動計画達成度の確認と次のステージへの課題・挑戦の整理・効果測定



     社員のキャリア自律を導く      上司のコミュニケーション


上司との3つのコミュニケーションが、社員のキャリア自律にプラスの影響を与えることがわかっています。日々の対話で活かしてみましょう。

※出典:パーソル総合研究所「従業員のキャリア自律に関する定量調査」



     具体的な

     期待の伝達


上司から、今後の自分のキャリアについての期待を伝えられることが、行動計画を進めるうえでの力になります。求められている役割について認識のズレや行動の迷いを防ぎ、ゴールの明確化にもつながります。

ただ、「期待してるよ」「がんばって」ではなく、「〇〇が□□できるようになったらサイコーだよね」といった具体的な状態を示すことが効果的です。



     学習意欲を生む      ビジョン共有


日頃から上司が部下と組織の目標やビジョンについて話をしており、上司自身がそれに肯定的であることが、キャリア自律にプラスに働きます。

ともに同じゴールをめざす実感を持ち、ゴールの先にある明るい未来を語り合うことでストーリー性が生まれ、そこに自分のキャリアとの紐づけられます。自分が求められている役割が明確になることから、学習意欲につながります。



     理解と

     フィードバック


上司に対して部下が次のような実感を持っていることでプラスの影響を与えます。


  • 評価には成果だけでなく、仕事のプロセスや工程も考慮されている

  • スキルや経験・知識が正しく把握されている

  • 仕事のあと、振り返りの機会を与えてくれる


「理解されている」という実感から安心感・信頼感が生まれます。一方的なフィードバックではなく、行動の背景や理由の理解が先です。そのうえで、できなかった原因を探して責めるのではなく、どうすればうまく行くかを未来志向でともに考えます。


キャリア自律支援では、企業に依存しない人材を育てますが、離職を促すことではありません。むしろ、離職率を下げます。エンゲージメントが高まり、生産性が上がります。

企業にとってはいいことずくめです。

土台づくりや社員とのコミュニケーションなら、今日からできます。まず、できることから、着手していきましょう。


キャリア自律の導入や人事体制の構築に悩んだら……






【注】本稿は、厚生労働省がキャリアコンサルティング技法のベースとしている、キャリア形成の6つのステップ(自己理解 → 仕事理解 → 啓発的経験 → 意思決定 → 方策の実行 → 新たな環境への適応)をもとに、循環する流れとして整理・簡略化したものです。「啓発的経験」は「目標設定・試行」に、「意思決定」と「適応」は「仕事理解と環境適応」に含めています。




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