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やさしい口どけの自己肯定感


「最近『自己肯定感を上げる』系の本を読み始めたんです!」と、クライエントのまゆみさん(仮名)から告げられて、実はわたし、「えっ、大丈夫?」と思ってしまったのですが……。 今日はこの本とまゆみさんについて、許可をもらってご紹介します。

『うまくいっている人の考え方 完全版』 ジェリー・ミンチントン著/弓場隆訳/ディスカバー携書

『うまくいっている人の考え方 完全版』 ジェリー・ミンチントン著/弓場隆訳/ディスカバー携書


■わたしが心配した理由……


ひとつは、自己評価の低さ。 肯定的な自己イメージをつくるのが困難な幼少期を過ごされたまゆみさんには「生まれてこなければよかった子」という観念があって、不公平なくらい自己評価を下げる癖と自罰傾向があります。まゆみさんにとって、「自己肯定感」や「自尊心」というものを「私以外の人が持っているらしい」ことを知っていますが、「自分には持つことは許されていない」もの。「あること」前提で「高めよ」と言われれば当然、混乱してしまいます。さらに、メンタル不調からうつを発症させたまゆみさんは、よく自分を「ポンコツ」と称します。自己評価の低い人が自己啓発系の本を読む、ちょっと意欲的になって、本に書かれたことを実行しようとする、そしてそれができないとき、「やっぱりポンコツにはムリなんだな」と自分を責めて、「やっぱり自分はダメな人間」と烙印を押すかもしれません。 もうひとつは、まゆみさんにとって、読書はまだ負荷の高い活動だということ。発症前は、仕事やプライベートで本を読むのが好きだったというまゆみさんですが、今はまだ十分に回復しておらず、「本を読んでいると疲れてしまう」「読まなきゃいけないんだけど、ページ開けたくない感じ」のときがあるといいます。買ったのに、積読(つんどく)になったら、また自分のことを「ポンコツは何をやってもダメ」と責めるに違いありません。 ■すんなり飲み込めた自己肯定感

そんな私の心配についてお話ししたら、 「あ、それ(自分を責めること)、しなくていいって書いてありました」と明るく答える、まゆみさん。今はなんだか読めてることが気持ちいいようです。 「見開き2ページでひとつの話が書いてあって、最後にまとめみたいに、この肝はこうだ、って太字で書いてあるんです。だからなんとなく『あ~。そうなのか』ってなるんですよね」 2013年版の一部がAmazonの「なか見!検索」で読めます。なるほど、やさしい言葉を使った短い文章、だけど、キーフレーズ(たとえば「自分にやさしく」など)がくり返されます。

「毎日、通勤電車で読んでます。でも、途中で寝ちゃうんですねどね」 まゆみさんは、ストレスなく飲みこめているようです。

■無意識が選んだ?

そもそも、まゆみさんが書店に行ったのは、友人から勧められた占いの本を買うつもりだったそうです。それが、なかなか見つからず、店内をうろうろしていると、 「あらっ?」 と目についたのが、平積みになった2色のパステルカラーの花柄の表紙。 帯の「100万部突破!」にも惹かれて手に取って立ち読みしてみたら、 「ん? ん? 読めちゃう? どんどん読めちゃうみたい?」

と、読み進めるうちに

「ピンクとブルー、どっちにしようかな?   ん? 待て待て、あれ私、もう『買う前提』で考えてる?」

と気づきながら、こっちがいいかな~っとピンクを選び、 「でも『カバーをかけてください』って頼むんですけどね。  何を読んでいるか周囲に知られたくないから」

まるで自己催眠でトランスに入っていくような、購入エピソードをうかがって、まゆみさんの無意識のこころが、この本を選んだのかもしれないと思いました。

このように、自己評価の低い人、自罰傾向の強い人でも抵抗なく、自尊心や自己肯定感に無理なく自然にアプローチできる良い本だと思います。ただ、よりポジティブな路線をアグレッシブに行きたい方にとっては、物足りなさを感じるかもしれません。 「これでいいんだよ、大丈夫」という安心感を得たい方にはお薦めです。


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